【日本代表コラム】フランクフルトラインマインと日本人音楽家の思い出

ドイツと日本の間では多くの文化的交流があります。文学ならゲーテ、シラー、ハインリッヒハイネ等々、またクラシック音楽でもバッハ、ヘンデル、ベートーベン、そしてブラームスなど多数があげられます。今回はフランクフルトから約30分、人口16万人ほどの学術都市ダルムシュタット市と、日本人音楽家との間のほっこりする交流の思い出についてご紹介ができるのをとても楽しく、誇りに思います。

まず今回のお話のきっかけとなった、東京の小さなクラシック音楽の演奏家グループ「CRUMU」の紹介です。演奏家の皆様は専門的な教育と練習を積んできたクラリネットのプレーヤーです。従来年間何度かの演奏会をしてきましたが、現在コロナ禍で演奏の機会は制限されています。それでも過酷な環境の中でファンのために新しい音楽の楽しみを届けようと努力されてきました。

フランクフルトラインマイン地域の日本代表である浅川石見はこうした中2月15日に行われた演奏会に招かれ、当日は新宿の「ドルチェ」というサロンで演奏会を楽しみましたが、そのグループのリーダーである内山敦さんとはすでに数年来の知己でした。

プログラムを読んでみると、なんと菊地さんという一人のメンバーがかつてダルムシュタットに3-4週間滞在した経験があるという一文を見つけました。菊地さんは当地で毎年開催されている現代音楽の夏季講習会に選抜されて参加したのです。一緒のメンバーとしてはドイツ、オランダそしてルクセンブルグからも一人ずつが選抜されておりました。この現代音楽夏季講習はかなり有名で毎年開催されており、著名な講師も毎回参加しております。また、講習に加えて毎晩市内の各地での演奏会が催されておりました。

実は菊地さん、これが初めての海外経験でしたが、このダルムシュタットのことをできるだけ吸収して知ることに心がけました。彼は滞在を楽しみ、同時にこの町が現代音楽の分野で大きな影響力を持っていることを発見しました。本来クラシックを勉強したのですが、こうして彼はさらに大きな興味を持つにいたり、日本に戻ってからも、一層この分野に興味を深めるに至ります。

私にとって、ダルムシュタットは初めての海外経験となった大変思い出深い特別な地です。

ここでは毎年現代音楽の国際講習会が開催されており、世界各地から多くの音楽家が集います。講習会では約2週間にわたってコンサート、レッスン、講義などを受けることができます。コンサートは1日3回あり、受講生はレッスンを受けながらそのコンサートに出演もさせてもらえるので、朝から晩まで完全に音楽漬けの毎日です。


講習会で中心に学ぶのは「現代音楽」と呼ばれる主に20世紀以降に作曲された、新しい時代の音楽です。それゆえに、音楽はかなり先鋭的な内容のものが多くなります。


このようなある意味刺激的な音楽の講習会が、ダルムシュタットのような落ち着いた雰囲気のこじんまりとした街で開催されている事は驚きでした。街の住民の方々は、参加者のために個人宅を解放してくれて、参加者の多くはホームステイでお世話になります。


小さな町であっても、文化的なものを当たり前のように大切にして、広く受け入れる懐の深さと、進取の気質がとても心地良く感じられました。


最初の数日間は、英語でのレッスンについて行けず苦労しましたが、ホームステイのご家族の皆さんがとても親切にしてくれて、クラリネットのクラスの仲間ともすぐに打ちとけて、日を追うごとに楽しさが増していきました。彼らのおかげで、私はその後、海外に行くことや、外国の方と話をすることが(言葉は下手だけど)とても好きになりました。


僅か2週間の滞在でしたが、ダルムシュタットから得たものは計りしれません。ここでの音楽・生活体験がその後の演奏活動の大きな第一歩となりました。

(菊地秀夫さん談)

実は芸術の世界でダルムシュタットは異彩を放っており、中でもマチルデンヘーエ・ダルムシュタット(Mathildenhoehe Darmstadt)と呼ばれる建築物が、ドイツのアールヌーヴォーのジャンルで最も重要な魅力となっています。始まりが19世紀の後半で、20世紀の初めには終わるという短い時代でしたが、アールヌーヴォー芸術のみならず、建築や工芸の分野でも具現化がもたらされました。今日ではダルムシュタットは技術大学としてつとに有名ですし、ヨーロッパの宇宙へのゲートウエイである欧州宇宙オペレーションセンター(ESOC)を主催していることで知られております。

菊地さんはお仲間とともに日本でのニューミュージックの分野でのリーダーの一人です。特にクラリネットなど、管楽器を中心とした室内楽におけるクラシックの音楽家とのグループに属しております。この中にリーダーとして内山さんがおり、彼は菊地さんとは長年の友人です。今回浅川はこの内山さんのご助力により、菊地さんを紹介され、同氏と直接の会話をすることで、コンタクトが出来上がったのです。

お二人はこのような国際交流の機会が訪れたことで非常に喜んでおります。それもお二人がともにドイツを大好きであり、また、こうした機会を好まれたことから生まれました。今回のように、日本の企業・団体のFRM地域進出に文化面での貢献でお役に立てることを良いことと認識しています。

書き手:フランクフルトラインマイン国際投資促進 日本代表 浅川石見

クラリネット奏者・菊地秀夫氏 略歴
桐朋学園大学卒業。1993年日本現代音楽協会主催コンクール「競楽Ⅱ」にて内山厚志氏とのクラリネットデュオで第2位。1996年、ドイツ・ダルムシュタット音楽祭にて奨学生賞受賞。2003年アンサンブル・ノマドメンバーとして(アンサンブル・ノマドのホームページへのリンク)、サントリー音楽財団第2回佐治敬三賞を受賞。音楽企画・演奏団体「OFFICE でく」代表。国立音楽大学及び尚美学園大学非常勤講師。今年1月にソロアルバム「刹那の慣習」を」リリース。